【2005.Jul.10 pion7】

 「遍歴一目表」でお知らせした通り、京都地裁で進行中であった原告:代理店と被告:AJOL社の裁判の一審判決文を公開致します。
 原告から提供された貴重な資料です。この場を借りて感謝申し上げます。

 個人を特定する記述は、編集しております。また、弁護士名も今回は記載しておりません。
 既に、大阪高裁に被告AJOL社が控訴しており、結審にいたっていないことをご理解の上お読み下さい。

 なお、判決文公開にあたり、原告から次のようなメッセージを頂いております。

 これは、判決文に相違ありません。
 私の判決はまだ確定しているわけではないのですが、もしも、「裁判」をお考えになっている方がおられましたら、この判決文を資料として採用して下さいますようよろしくお願いします。


平成17年5月16日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平威16年(ワ)第800号 原状回復等請求事件(平成17年3月23日口頭弁論終結)

       判    決

    京都市山科区****番地
     原 告 A
    大阪府高槻市********
     原 告 B
     上記両名訴訟代理人弁護士

    東京都渋谷区神宮前五丁目52番2号
     披 告 株式会社エイジェイオーエル
     同代表者代表取締役
     同訴訟代理人弁護士

    
被告は,原告Aに対し,金41万6500円及びこれに対する平成16年3月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
被告は,原告Bに対し,金40万6000円及びこれに対する平成16年3月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
原告Aのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告Bと被告の間に生じたものは被告の負担とし,原告Aと被告の間に生じたものは,これを10分し,その3を原告Aの負担とし,その余を被告の負担とする。
この判決の第1項及び第2項は,仮に執行することができる。


事実及び理由
第1 請求
 被告は,原告Aに対し,金56万6500円及び内金41万6500円に対する平成16年3月29日から支払済みまで年6分の,内金15万円に対する平成16年3月29日から支払済みまで年5分の,各割合による金員を支払え。
主文第2項と同旨

第2 事実の概要

 本件は,原告らがそれぞれ被告との間で特定商取引法所定の連鎖販売取引を締結したとして,(1)原告Aは,特定商取引法40条に基づく契約解除による原状回復又は消費者契約法4条に基づく取消による不当利得の返還として,上記契約に基づいて被告に支払った金員と同額の金41万6500円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成16年3月29日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いと,被告の不法行為による損害賠償として金15万円及びこれに対する平成16年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを,(2)原告Bは,特定商取引法40条に基づく契約解除による原状回復として,上記契約に基づいて被告に支払った金員と同額の金40万6000円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成16年3月29日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

1 基礎となる事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)

 (1)ア
 被告は,オンラインサービスの提供,会員サービスの提供,インターネット端末でもあるファクシミリ機器「MOJICO」(以下「MOJICO」という。)の製造,販売等を業とする株式会社である。

   イ(ア)
 MOJICOは,被告の行う通信情報サービス「PAN PACIFIC ONLINE」(以下「PPOL」という。)を利用するために被告が開発し,製造・販売する通信情報端末であり,ファックス機能を併有する機器である。

    (イ)
 PPOLは,被告との問で後記「Acube会員契約」を締結した会員間の情報発信サービスに参加し,また,被告が提供する各種情報を利用することのできる通信情報サーピスであり,具体的には,(1)MOJICOメール(送り先を同時に50人まで指定して,他のMOJICOに,紙面で親展メールを送信し,又はこれを受信することのできるサービス),(2)Eメール(送り先を同時に50人まで指定して,他のMOJICOやEメール対応携帯電話及びパソコン等に,画面でテキストメールを送信し,又はこれを受信することのできるサービス),(3)MOJICO掲示板(会員が自ら紙面で手紙や広告を投書し,他の会員がこれを読むことができるサービス),(4)情報利用サービス等がある(甲2)。

 (1)イ(ウ)
 Acubeは,被告が主催し,運営,管理する,個人加入の会員組織であり,MOJICOを通じて被告が提供する前記通信情報サービスPPOLの利用を目的とするものである。Acubeの会員には,

(1)被告からMOJICOを正価で購入し,被告に正価の入会金を支払ってAcubeに入会した正会員
(2)被告からMOJICOを正価で購入し,入会金を支払うことなくAcubeに入会した準会員
(3)MOJICOを上記(1),(2)以外の方法で購入又は所有してAcubeに入会した一般会員
(4)被告からMOJICOを正価で購入したが,その代金及びAcube入会金のクレジット申し込み又は振込の承認が完備しなかったため,MOJICOを所有することなく,被告に正価の入会金を支払ってAcubeに入会した協力会員
などの区分が設けられている。(甲2)

    (エ)
 MOJICOを購入してAcubeに入会した会員は,被告との間で「Acube代理店契約」を締結して,Acubeの代理店として登録することができる。代理店は,MOJICO購入の斡旋や,Acubeへの入会の勧誘を行い,その成果として自己の系列下の会員がMOJICO及び流通商品等を購入した場合に,その実績に応じて,被告から報酬の分配を受けることができる。
 なお,代理店には,下記のとおりAcubeの会員区分と対応した,正代理店(Acubeにおける正会員),準代理店(Acubeにおける準会員)及び協力店(Acubeにおける協力会員,又は協力会員から一般会員に区分変更した一般会員)とがある。
 Acube代理店契約に基づき,被告が代理店に支払うべき報酬は,所定の資格段階に応じて算出される。
 代理店の資格段階には,協力店,準代理店,正代理店,ディーラー,正規ディーラー,統括ディーラー,講師の各段階か設けられていて,一定の条件,即ち当該代理店の系列下での前月度及び当月度における正価でのMOJICO購入が一定の台数を超えていること及び一定の研修の受講等の条件を満たすことにより,資格段階を昇格することができる。

    (オ)
 代理店に対する報酬の具体的な算出方法は,被告の「報酬プログラム」中の「開拓プログラム」及び「流通プログラム」に定められている。
  「開拓プログラム」に定める報酬は,当該代理店の勧誘による正価でのMOJICO販売件数及びAcube入会件数に応じて,報酬単価に基づき算出される手数料と,当該代理店の系列代理店の勧誘活動による正価でのMOJICO販売件数及びAcube入会件数に応じて算出された報酬額から,当該代理店の資格段階に応じて設定された割合に配分された報酬(「アクティブボーナス」,「リーダーシップボーナス」,「アニュアル・マネージメント・フィー」)がある。
  「流通プログラム」に定める報酬は,情報商品(更新料,広告掲載料等),共済商品(かもめ共済各プランの月額掛金),Cube商品(Cubeでの購入が可能な通販商品等)のうち,報酬単価が設定されている商品について,その報酬単価の76パーセントを代理店としての資格段階に応じて分配するものである。(甲2,9)

    (カ)
 Acubeでは,会員に,入会契約締結時に7000円,以後毎月3500円を,自動振替の方法で支払わせて,振替手数料を控除した残額を「cube」と称する商品購入のための前払金として両替処理し,CubeをいわぱAcube内での電子通貨として決済の手段に用いさせている。このCube両替の振替は,例えば,ディーラー以上に昇格するためには昇格月度の当月20日までに,適式のCube自動振替申込みがあり,有効な状態にあることが条件とされたり,ディーラー以上の代理店について,Cube両替の振替が連続2回以上行われない場合,代理店資格を停止する等の方法で,代理店の資格と関連付けられている。(甲2,7,9,15)

    (キ)
Acubeの会員資格及び代理店資格の有効期間は1年間とされ,会員資格及び代理店資格を更新するためには,入会月度の翌年の同月度の前月に更新料(税込み1万0500円。会員資格のみを更新する場合は税込み5250円)を自動振替の方法で支払う。自動振替ができず,代理店資格の有効期間か終了すると,会員資格のみの更新を行った場合を除き,会員資格の有効期間も同時に終了する。(甲2)

 (2)
 原告Aは,平成15年6月7日頃,被告との間で,MOJICO購入契約,Acube入会契約及びAcube代理店契約を締結した。
 原告Bは,同年7月2日頃,被告との問で,MOJICO購入契約,Acube入会契約及びAcube代理店契約を締結した。
 上記各契約締結の際,被告は原告らに対し,「契約時交付書面」と題する,上記各契約内容を記載した書面(甲2、以下「本件契約書面」という。)を交付した。

 (3)
 原告Aは,平成15年5月29日,被告に対し,MOJICO購入代金として金37万8000円,Acube入会金として金2万1000円,Cube代金として金7000円を支払い,更に,同年6月から8月にかけて,Cube代金として合計1万0500円の合計金41万6500円を支払った(甲10,乙4)。
 原告Bは,被告に対し,MOJICO購入代金として金37万8000円,Acube入会金として金2万1000円,Cube代金として金7000円の会計金40万6000円を支払った。

 (4)
 原告らは,それぞれ,平成16年1月7日,被告に対し,特定商取引法40条に基づき,「MOJICO購入契約及びAcube入会契約」を解除する旨の意思表示をした(甲1(枝番を含む。以下同じ。))。

 (5)
 原告Aは,遅くとも平成15年11月7日までに,被告に対し,「MOJICOの購入及びこれに付帯する全ての契約」について,消費者契約法第4条1項1号及び2号に基づく取消の意思表示をすると共に,平成16年1月7日,「MOJICO購入契約及びAcube入会契約」について,消費者契約法第4条3項に基づく取消の意思表示をした(甲1,3)。

2 争点及び争点に対する当事者の主張

 (1) 特定商取引法40条に基づく取消の可否及びその範囲

 (1)ア 原告らの主張

    (ア)
 MOJICO購入契約,Acube入会契約及びAcube代理店契約は,一体のものであり,これらは包括して1個の連鎖販売取引(特定商取引法33条1項)というべきものである(以下,原告Aが締結した上記一体的契約を「本件代理店契約(1)」といい,原告Bが締結した上記一体的契約を「本件代理店契約(2)」という。)。

    (イ)
 本件代理店契約(1)及び(2)は,MOJlCO購入代金,Acube入会金,Cube購入代金,有料の代理店研修への参加,かもめ共済への共済掛金の支払等を特定負担とし,他者へのMOJICOの購入斡旋及びAcube入会契約の斡旋等により,その売り上げの中から代理店資格の地位に応じ一定の方法で計算される報酬を特定利益とする連鎖販売取引(特定商取引法第33条1項)である。
 しかるに,本件代理店契約(1)ないし(2)の締結に際し,被告が原告らに交付した本件契約書面には,事実上参加を強制される有料の「代理店研修」の参加費用についての記載や,連鎖販売取引に使用する有料の「申込用紙Jについての記載がない。
 したがって,本件契約書面は,特定負担についての記載を欠き,特定商取引法37条2項の要件を満たさないから,前記各意思表示の当時,未だクーリングオフ期間は経過していなかった。

  イ 被告の主張

    (ア)
 Acube代理店契約が特定商取引法に規定された連鎖販売取引であることは認め,MOJICO購入契約,Acube入会契約及びAcube代理店契約が一体の契約であること,及び原告ら主張の特定負担については否認する。

    (イ)
 Acube代理店資格の取得には,「業務研修」か必要であるが,これは無料であり,原告らはこの業務研修を受講している。さらに上位の代理店になるためには,新代理店研修及びLWSという有料の研修が必要となるが,これは希望者のみが受講するものであり,特定負担にあたらない。

    (ウ)
 従って,原告ら主張の代理店研修参加費用を契約時交付書面に記載する必要はないから,クーリングオフ期間は既に経過しており,原告らの解除はいずれも無効である。

 (2) 消費者契約法に基づく取消の可否

   ア 原告Aの主張

    (ア)
 消費者契約法は,消費者と事業者との問の情報の質,量及び交渉力の格差に鑑み,消費者の利益の擁護を図ることを目的とするものであるから,当該契約が「事業としてまたは事業のために」なされたかどうかは,当該契約に関する情報の質,量及び交渉力についての相手方事業者との格差の有無・程度を前提として,事業者と契約する者が,当該契約に基づき一定の目的をもって反復継続的になされる行為との関係で,社会通念上,事業の遂行とみられる程度の社会生活上の地位を有しているか否かで判断すぺきである。本件のような連鎖販売契約においては,取引に加入する時点での事業者と契約者との間に,情報の質,量及び交渉力において,大きな格差があることは明らかであり,また,一般に連鎖取引においては,その取引に関して新規加入者が負った金銭的負担が,そのまま上位者の報酬の原資となるものであり,加入者が以後勧誘活動を行うとしても,その収益の取得が容易ではない。このようなことからすると,連鎖販売取引の加入者が末端の契約者にとどまる場合には,事業の遂行とみられる程度の社会生活上の地位は有していないというべきである。
 したがって,本件代理店契約(1)は,消費者契約に当たる。

    (イ)(不実告知による誤認)
 原告Aは,本件代理店契約(1)の締結に際し,同原告を勧誘した被告の代理店C及びDから,「MOJICOのホストコンピュータは,現在までに,40億円を注ぎ込んでNTTに開発させている。」などと虚偽の事実を告げられ,これを事実と誤認した。
 原告Aを勧誘した際の代理店C及びDの上記説明は,消費者契約法4条1項1号の不実告知にあたる。

    (ウ)(断定的判断の提供による誤認)
 原告Aは,本件代理店契約(1)の締結に際し,同原告を勧誘した代理店C及びDから,「Acubeというのは,21世紀の凄いビジネスだ。もう間近に凄いことになるから今のうちに入っておかないともったいない。」などと,本件代理店契約(1)を締結することで,将来,利益を得られることが確実であるかのような断定的判断を告げられ,その内容が確実であると誤認した。
 原告Aを勧誘した際の代理店C及びDの上記説明は,消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供にあたる。

    (エ)(退去妨害による困惑)
 原告Aは,本件代理店契約(1)の締結に際し,大阪市内のホテル内喫茶店において,午後8時から午後10時過ぎまで,代理店C及びDから,長時間にわたる勧誘を受けた。その際,原告Aは,その場で契約する意思がないことを告げたにもかかわらず,執拗な勧誘を受け,上記喫茶店からの退去を妨害され,困惑した結果,本件代理店契約(1)の締結に至ったものである。
 代理店C及びDの上記言動は,消費者契約法4条3項の退去妨害にあたる。


  イ 被告の主張

    (ア)
 消費者契約とは「消費者と事業者との間で締結される契約」をいうところ(消費者契約法第2条3項),「消費者」とは「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く個人」である(同法第2条1項)。原告Aは,事業による特定利益を目的として本件各契約を締結し,実際に事業上の利益として「特定利益」を取得しているのであるから,「事業のために契約の当事者」となっていることは明らかである。従って,原告Aは,消費者契約法上の「消費者」に該当しないから,本件各契約には消費者契約法の適用はない。

    (イ)(不実告知による誤信)
 原告Aの主張(イ)の事実は否認する。
 また,そもそも原告Aの主張する代理店Cらの説明内容自体,消費者契約法上の「重要事項」に該当しないから,不実告知には当たらない。

    (ウ)(断定的判断の提供による誤認))
 原告Aの主張(ウ)の事実は否認する。
 また,そもそも原告Aの主張する代理店Cらの説明内容自体,「断定的」とはいえない内容であり,単に事業の将来に関する事項に過ぎないから,消費者契約法により取消の対象となる「断定的判断の提供」には当たらない。被告が,原告Aに対し,将来,利益を得られることが確実であると告げたこともない。
 さらに,原告Aは,「断定的判断の内容」が確実であるとの誤認もしていない。即ち,原告Aは,被告に対し,MOJICO購入及びAcube入会の申込みをし,Acube代理店登録の申込みを行っているが,その際,Acube代理店申込書中に記載された「必ずもうかる,楽してもうかるとは考えておりません。収益が得られない場合も多いことを承認しております。」との注意事項について,承認の印として「はい」の欄に丸をつけている。

    (エ)(退去妨害による困惑)
 原告Aの主張(エ)の事実は否認する。
 原告Aが代理店Cらから勧誘を受けた場所は,ホテル内の喫茶店という,誰もが出入り可能なオープンスペースであり,どこかに連れ込まれて退去不能の状態で調印させられたというものではなく,原告Aが退去したければいつでも退去できる状況にあった。
 仮に,原告Aの主張するような状況があったのであれば,同原告が事業の内容を確認した後,わざわざ代金の振り込みを行ったのか説明がつかない。


 (3) 被告の原告Aに対する不法行為の成否及び損害額

   ア 原告Aの主張

    (ア)a
 代理店C及びDは,前記(2)ア(イ)記載のとおり,原告Aに対して虚偽の事実を告げて勧誘したが,かかる勧誘行為は,特定商取引法において,罰則付きで禁止されており(70条1号,34条1項),それ自体違法なものである。また,代理店C及びDは,前記(2)ア(ウ)記載のとおり断定的判断を示した上で,原告Aがその場で契約締結の意思がない旨を告げたにもかかわらず,執拗に勧誘行為を行った結果,本件代理店契約(1)を締結させたものである。
 さらに,代理店C及びDは,本件代理店契約(1)締結の際,原告Aに対して第三者を勧誘することにより特定利益を得られること,被告が100万代理店を目標としていることを告げたものの,代理店となれば,自らが勧誘活動に成功し経済的利益を得るか,多くの他人に経済的損失を負わせるかのいずれかとなることを告げなかった。このような事実は,正に,本件代理店契約(1)締結について,原告Aの判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項であるところ(特定商取引法34条1項5号),これを告げない勧誘行為は,特商法において罰則をもって禁止されており(同法70条1号),それ自体違法な行為である。
 
     b
 被告は,連鎖販売取引という業務形態から,代理店C及びDとの間に,実質的な指揮監督関係があった。

    (イ)
 連鎖販売取引においては,代理店による違法な勧誘行為がなされることが少なくないところ,被告は,連鎖販売取引の統括者として,違法な勧誘行為がなされ,加入者からそれを理由とする解除・取消の意思表示があった場合には,速やかにこれに応じるべき法的義務を負っている。
 しかるに,被告は,原告Aが,前記のとおり,平成15年11月4日頃及び同月11日頃の2度にわたり,消費者契約法に基づく取消の意思表示をし,既払金の返還を求めたにもかかわらず,これに応じなかった。

    (ウ)
 原告Aは,上記のような違法な勧誘を受け,また,被告が速やかに既払金の返還に応じなかったことにより,多大な精神的苦痛を被った,これを慰謝するには,10万円を下ることはない。
 また,原告Aは,上記のような違法な勧誘行為により締結に至った本件代理店契約(1)の解除ないし取消及び被害回復のため,本件訴訟の追行を弁護士に委任せざるを得なくなったが,その費用は,5万円を下らない。
 したがって,被告は,代理店C及びDの不法行為により原告Aに生じた上記損害について,民法709条,715条により賠償する義務を負う。


  イ 被告の主張

 代理店C及びDには,原告Aの主張する不法行為は成立しない。
 また,代理店CないしDと被告との間には,指揮命令関係はないから,被告が使用者責任を負う根拠はない。


第3 当裁判所の判断

 1 (認定事実)
 前記基礎となる事実に証拠(甲2,5,6,9,10,22,乙1ないし3,5,7ないし9,12ないし14,証人代理店C,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

  (1)
 原告Aは,京都市内の保健所に勤務する公務員であり,原告Bはその母である。

  (2)
 原告Aは,平成15年5月11日,いわゆる合コンパーティーで代理店Cと知り合い,同月14日,代理店Cと食事を共にした。その際,原告Aは,代理店Cから,同人が本業のピアノ教師の傍ら,サイドビジネスとして「ネットワークビジネス」をしていることなどを聞かされ,「まだ世の中に出ていない新規事業だから,今のうちに入っていた方がいいと思う。もし良かったら,話ができる人を紹介してあげようか。」と誘われた。原告Aは、代理店Cの手前,興味を持ったかのような態度を示した。
 同月19日,原告Aは,代理店Cから「明日いい話があるから,ハンコと身分証明書を持って来て欲しい」と誘われたため,翌20日午後8時半頃,印章を持参して待ち合わせ場所である大阪市内の「東洋ホテル」に赴いた。

  (3)
 代理店Cは,同ホテルのロビーで原告Aと落ち合った後,原告Aに代理店Dを紹介し,代理店Dは原告Aに対し,「Acube代理店」と書かれた名刺を渡して自己紹介した。その後,代理店DとCは,同ホテル1階のティーラウンジで,原告Aに対し,被告の事業内容,特に,PPOLのサービスの概要やMOJICOによるネットワークビジネスの概要について説明を始め,主として代理店Dにおいて,
PPOLはファックスを使ったクローズド・インターネットサービスであり,AcubeはMOJICOというファックス機器を「ネットワークビジネス」によって広めることを目的としていること
Acubeの事業はマルチ商法ではなく,「ネットワークビジネス」であって,MOJICOを普及させることにより「21世紀の生協」を作ろうとしていること
MOJICOはホストターミナル方式のインターネット端末で,そのインターネットを管理するホストコンピュータはNTT東日本がこれまでに40億円をつぎ込んで開発し,維持管理をしていること
2007年までに100万のAcube代理店を獲得し,ホストコンピュータを完成させてさらにサービスの拡充を行い,それらを基礎にして,将来的には1000万世帯にMOJICOを普及させようと考えていること
この事業では,多くの代理店がモニターとなって,日々MOJICOを使うことによって,センターシステムが日々改良されて,進化していくシステムであること
MOJICOはファックスベースなので,パソコンと違って誰でも簡単にインターネットができる上,完全ID制を採用しているので安全であること
手書文字認識,データマイニング,統合検索の3つの技術の開発,導入を目指していて,近い将来,手書きで書いたものをそのままコンピュータで認識できるようになったり,必要な情報を簡単に出せるようになること
などの説明をして,MOJICOの購入やAcubeへの入会及びAcube代理店登録を勧誘した。
 原告Aは,MOJICOの購入代金やその他の諸費用が合計40万円以上になることや,具体的にどうすれば投資した資金の回収ができるのかわからなかったため,代理店Dに対し,「こんな話を,すぐに決められません。40万円もの大金がかかることですし。しばらく考えさせてほしい。」と述べていたが,代理店Dは更に,「何を迷うことがあるんですか。とりあえず契約申込みしても審査に時間がかかる上に,MOJICOを受け取ってから20日間のクーリングオフ期間があるから,その間に考えればいいのではないですか。」,「私はこれこそが21世紀のビジネスだと信じています。AcubeはMOJICOを使ってすごいことをしようとしているんです。」などと述べた。
 原告Aは,更に,「今までに聞いたビジョンというのは正にこれから先の話であって,本当にそうなるかどうかなんて誰にも分からないのに,どうして『凄いことになる』などと断言できるのですか?」と反論したが,代理店Dは「疑う余地は無いです。本当に凄いんですよ。Acubeのビジョンが実現するかどうかは代理店の活動如何にかかっているんですよ。まだ世に出ていないだけであって,これからはAcubeの時代だと僕は信じています。」と述べるほか,「疑う余地がない」,「すごい」,「とにかく本当に凄いことが起こる。」「今入っておかないと損だ」などと繰り返して勧誘した。
 原告Aは,同日午後10時半頃,MOJICO購入兼Acube入会申込書及びAcube代理店登録申込書に必要事項を記入し,署名捺印して代理店Cに上記各申込書を交付した。

  (4)
 上記Acube代理店登録申込書には,不動文字で「私は下記項目を確かに承認の上,Acubeの代理店登録を申し込みます。」との記載のもと,(5)項として,「報酬体系は,系列を育成して,積極的な営業活動を行う代理店に収益取得の機会を公平に提供することを旨としております。必ずもうかる,楽してもうかるとは考えておりません。収益が得られない場合も多いことを承認しております。」との記載があり、原告Aは同項目横に記載された回答欄中,「はい」の欄を丸で囲んで回答している。
 また,MOJICO購入兼Acube入会申込書には,不動文字で,「クーリングオフのお知らせ」との記載のもと,「MOJICO及び入会金については,MOJICOに同梱の交付書面を受領した日から,受領日を含めて20日(代理店登録をしない場合は8日)の間に,株式会社エイジェイオーエルに書面原本を送付して申し出ることによって契約を解除できます。」との記載があり,Acube代理店登録申込書にも,同旨の記載がある。

  (5)
 被告のAcube登録プログラムには,代理店登録を申し込んだ者が,入会月度の翌々月10日までに「業務研修」を受講し,代理店登録確認書を不備なく提出しないと,代理店資格が停止される旨定められている。業務研修は,Acube事務局講師が行う無料の研修であり,昇格条件を含む業務説明や,書類記入実習などが行われる。(甲2,9,乙14)

  (6)
 他方,Acube事務局作成の報酬プログラムガイド(2003年2月4日付,Ver6.0)には,Acube代理店の各資格毎の「必須研修等」として,正代理店は「代研(代理店研修。以下同じ。)1回」,ティーラーは「LWS1回」正規ディーラーは「LWS2回」,統括ディーラーは「LWS3回,新任統括研修」などと記載されている。
 また,被告の「報酬プログラム」には,Acube代理店の各資格ないし昇格条件について,正代理店からティーラーへの昇格条件の一つとして,通算少なくとも1回,代理店研修を受講していることが定められ,ディーラーの代理店資格停止条件として,所定の期間内に代理店研修またはLWSを受講し,不備なく記名された受講票を提出しなかったことが定められている。
 同様に,ディーラーから正規ディーラーへの昇格条件の一つとして,通算少なくとも2回,代理店研修を受講していることが定められ,正規ディーラーの代理店資格停止条件として,所定の期間内に代理店研修またはLWSを受講し,不備なく記名された受講票を提出しなかったことが定められている。
 また,正規ディーラーから統括ディーラーへの昇格条件の一つとして,通算少なくとも3回,代理店研修を受講し,通算少なくとも1回,LWSを受講していることが定められ,統括ディーラーの代理店資格停止条件として,所定の期間内に代理店研修またはLWSを受講し,不備なく記名された受講票を提出しなかったことが定められている。
 なお,2003年5月20日付のAcube事務局作成の「号外」には,代理店研修に代わり,「新代理店研修」が昇格に必要な研修とされている。
 代理店研修ないし新代理店研修及びLWSはいずれも有料の入場券が必要であり,入場券は平成15年5月20日時点で1枚1050円(税込み)であった。

  (7)
 原告Aは,同月23日,代理店Cに誘われて,代理店主催のAcubeの事業説明会に参加し,同年6月中旬頃には代理店研修に参加した。その際,原告Aは,代理店Cから,同研修について「出席しなければならない」旨の説明を受け,参加のためのチケット購入代金として1000円を支払い,更にその後,代理店Cから「今は必要ないかもしれないけれども,近い将来必ず出なければいけないようになるから,今のうちに出ておいてください。」と言われて,「LWS」という研修も受講し,同様に1000円を支払った。

  (8)
 原告Aは,平成15年6月28日,業務研修を受講し,その際,「代理店登録確認書」に所定事項を記入して被告に提出した。同確認書には,不動文字で「業務研修を終了しましたので,下記改めて承認いたします。」との記載のもと,第10項として,「勧誘に当たっては,もうかりますトーク・年金トーク・無料配布トーク・他社MOJICOトーク・光ファイバートーク・手書き文字認識トーク・認定トーク・NTTトーク等,無用な問い合わせを招くような話はいたしません。また,私自身,このようなトークを確実な話と誤認して入会するものではありません。」との記載があり,原告Aは同項目横に記載された回答欄中,「はい」の欄を丸で囲んで回答している。

  (9)
 原告Aは,Acube代理店としての勧誘活動により,公務員である自分の名義で多額の報酬を得るのを避けるため,親族をダミーにする方法があることを教えられ,原告Bを原告Aの単なる家族会員でなく,自己の系列の独立の代理店とするため,同年6月8日ころ,原告Bに対し,「ファックスのように簡単に使えて,メールのやりとりやインターネットができる機械がある。」などと述べて勧誘し,同年7月2日頃,原告B名義で,MOJICO購入契約,Acube入会契約及びAcube代理店契約を締結させた。

  (10)
 原告Aは,同年6月30日,代理店Cに対し,「○○ちゃんのこと,本当に好きだから。」,「僕のことをどう思っているか教えて欲しい。」等と述べたが,代理店Cから交際を断られた。

  (11)
 その後,原告Aと代理店Cは疎遠になっていたが,同年10月頃から,原告Aから代理店Cに対し,「もうこれ以上,被害者を出すような行為はやめろ」等の内容のメールが届くようになり,同月9日には原告Aが代理店Cを呼び出し,ホテルのラウンジで,代理店Cに対し,「詐欺師」と怒鳴るなどした。
 その後,原告A及び原告Bは,前記基礎となる事実記載のとおり,契約解除ないし取消の意思表示をした。


 2 争点(1)(クーリングオフの可否及びその範囲)について

  (1)
 上記認定事実及び前記基礎となる事実を総合すると,原告Aが被告との間で締結したMOJICO購入契約,Acube入会契約及びAcube代理店契約のうち,MOJICO購入契約とAcube入会契約は,MOJICO自体がAcube会員に対する通信情報サービスを利用するための専用の端末であり,MOJICO購入契約書もAcube入会申込書と一体となっていること(甲5,乙1)に鑑みると,両者は一体の契約というべきであり,また,Acube会員資格とAcube代理店資格が原則として一致していること,Cube代金の支払いは,Acube会員資格及び代理店資格の継続の為に必要とされている他,代理店として各種報酬を得る前提とされていることなどを総合すると,Acube代理店契約もまた,MOJICO購入契約及びAcube入会契約と一体の契約ということができ,これらは全体として連鎖販売取引(特定商取引法33条1項)と認められる。

  (2)
 連鎖販売取引における特定負担とは,「その商品の購入若しくはその役務の対価の支払い又は取引料の提供」(特定商取引法33条1項)であり,取引料とは「取引料,加盟料,保証金その他いかなる名義をもってするかを問わず,取引をするに際し,又は取引条件を変更するに際し提供される金品」(同条3項)であるところ,上記特定負担は,明示的に取引の条件とされているものに限らず,取引の実質に着目して,連鎖販売取引に伴い,再販売等を行う者が負うあらゆる金銭的な負担が含まれるというべきである。
 したがって、再販売等をするために必要な物品を購入する場合の代金や,研修参加費用等の金銭負担は,特定負担にあたると解するのが相当である。
 また,当該販売組織に入会する時点で負担させられるものに限らず,組織に入会後,実際に商売を始めるために別途何らかの金銭的負担をすることが前提となった契約である場合には、その負担が特定負担に該当するというべきであり,さらに,特定負担が,その名称を問わず現実の取引に伴う負担か否か,という実質面着目した概念であることからすれば,形式的には参加者の任意の金銭的負担であるとされているものであっても,現実の取引実体からみて,当該連鎖販売取引に参加した場合に拒み得ない金銭的負担は,特定負担にあたるというべきである。

  (3)
 これを本件についてみると,前記のとおり,MOJICO購入契約,Acube入会契約及びAcube代理店契約を行って正代理店の資格を得た者は,前記各研修のうち,無料の業務研修を受けただけでは,被告の報酬プログラムのうち開拓プログラムにおける手数料収入を得られるにとどまる。しかし,被告の報酬プログラムにおける正代理店は,代理店研修を受講することによって,手数料のほかに,当該代理店の系列代理店の勧誘活動による報酬であるアクティブボーナスを受けうる資格であり,また,上記認定事実によれば,Acube事務局の前記「報酬プログラムガイド」において,正代理店に対する代理店研修は「必須研修等」と位置づけられ,原告Aの取次代理店にあたる代理店Cも,原告Aに対し,代理店研修について,行かなければならない研修として説明し勧誘していたこと,本件代理店契約(1)の勧誘に際しても,同契約の特徴として,将来,100万,1000万の代理店を獲得することにより,MOJICOによるネットワークシステムが進化すること,そのため,未だ世間に知られていない段階で代理店に登録し,系列代理店を増やすことによって,投下資金も回収でき,相当の報酬を得られる可能性がある旨を説明しているのであって,一旦正代理店として登録した後,資格段階を昇格していくことを当然の前提としていたことが認められる。
 そうすると,有料の研修である代理店研修ないし新代理店研修及びLWSは,本件代理店契約(1)及び(2)に伴って負うことが前提とされ,これを拒み得ない金銭的負担というべきであり,特定商取引法37条により,特定負担として契約書面にその記載が要求されるというべきである。
 しかるに,本件契約書面にはその記載がなく,また,別途原告らに交付された「号外」には新代理店研修等について「受講いただくためには、入場券が必要となります。新代研・LWS全国共通入場券(一枚一〇五〇C税込)を六枚セット六三〇〇C(報酬単価税込八四C)であらかじめご購入ください。」と記載されているが(乙14),同書面は特定商取引に関する法律施行規則の定める方式によるものではなく,また,入場券の対価の記載も,「C」がCubeを指すことについての記載がない等不明確なものである。
 しがたって、その余の点について検討するまでもなく,本件契約書面は,特定負担についての記載を書き,特定商取引法37条2項の要件を満たさないから,原告らによる前記解除の意思表示の当時,未だクーリングオフ期間は経過していなかったというべきであり,上記解除はいずれも有効と認められる。


 3 争点(3)(不法行為の成否及び損害額)について

 (1)
 特定商取引法は,連鎖販売取引等の特定商取引を公正にし,購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより,購入者等の利益を保護し,あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものであるから,同法に違反する勧誘行為は,直ちに当然に購入者等の権利を侵害するものとして不法行為を構成するものではないというべきであり,当該勧誘行為等の具体的態様に応じて,不法行為の成否が検討されなければならない。

 (2)
 これを本件についてみると,前記認定の事実によれば,代理店D及びCが平成15年5月20日に原告Aに対してMOJICO購入,Acube入会及びAcube代理店登録の勧誘をするために述べた内容のうち,原告Aが断定的判断として主張する部分は,被告の事業の将来性について,極めて抽象的に述べたものに過ぎず,それ自体として,連鎖販売取引につき利益を生ずることが確実であると誤解させ得るような断定的判断とは認められない。また,原告A自身も,前記認定のとおり,「今までに聞いたビジョンというのは正にこれから先の話であって,本当にそうなるかどうかなんて誰にも分からないのに,どうして『凄いことになる』などと断言できるのですか?」と代理店Dに指摘,反論し,これに対して代理店Dは具体的な説明や反論もできていないのであるから,上記のような代理店D及びCの言動と,本件代理店契約(1)の締結との間に因果関係は認められないというべきである。
 また,前記認定のとおり,原告Aは,本件代理店契約(1)の勧誘を受けた際,代理店Dからクーリングオフの適用やその起算点について説明を受け,また,MOJICO購入兼Acube入会申込書やAcube代理店登録申込書に記載されたクーリングオフに関する説明を読んだ上でこれらに署名捺印したのであるから,原告Aが主張するように,深夜まで執拗に勧誘されたとしても,その後直ちに解除を主張することもなく,代金を振り込み,代理店Cに誘われるまま,研修等に出席していることに鑑みると,代理店C及びDによって,原告Aが主張するような退去妨害があったとは認めがたい。
 更に,前記のとおり,代理店Dは,本件代理店契約(1)の勧誘にあたり,原告Aに対し,MOJICOがホストターミナル方式のインターネット端末で,そのインターネットを管理するホストコンピュータはNTT東日本がこれまでに40億円をつぎ込んで開発し,維持管理をしている旨説明し,上記のうち少なくともNTT東日本がMOJICOのホストコンピュータを開発したと認めるに足りる証拠はない。しかしながら,前記認定の事実を総合すると,原告Aは,平成15年6月28日に受講した業務研修において代理店登録確認書に「NTTトークは(中略)いたしません。」などと記載されていることについて,格別疑念をもった形跡がなく,その後もCube代金の自動振替を継続していること,同原告自身,主として代理店Cに対する個人的な信頼や,パソコンが使えない高齢者や子供をターゲットにしたクローズドインターネットサービスという事業内容自体について,相当のニーズがあり将来性があるものと判断して本件代理店契約(1)を締結したものと認められ(原告本人),ホストコンピュータの開発・維持管理主体の誤信と本件代理店契約(1)の締結との間に相当因果関係は認められない。

 (3)
 更に,本件代理店契約(1)が,原告Aの主張するように,その内容自体,当然に「代理店となれば,自らが勧誘活動に成功し経済的利益を得るか,多くの他人に経済的損失を負わせるかのいずれかとなる」ような性質のものとまで認めるには足りず,また、Acube代理店登録申込書には前記1(4)のような記載や,「Acubeの代理店登録は,特定商取引に関する法律に規定する連鎖販売取引に該当します。」((7)項)の記載があることに鑑みても,本件代理店契約(1)の締結に際し,代理店の報酬についての概略の説明はあったと認められるから,上記事実の不告知を根拠とする不法行為の主張も採用できない。

 (4)
 したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告の使用者責任を根拠とする請求は失当といわざるを得ない。

 (5)
 次に,前記認定事実に弁論の全趣旨を総合すると,原告Aが,平成15年11月4日頃及び同月11日頃,消費者契約法に基づき本件代理店契約(1)の取消の意思表示をしたのに対し,被告がこれに応じず,本訴に至ったことが認められる。
 しかしながら,私法上の請求を受けてこれを拒絶し,提訴後もこれを争って応訴する行為に違法性が認められるためには,当該行為が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合であることを要すると解すべきところ,本件全証拠によっても,本訴ないしこれに至る被告の対応が,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くことを基礎付ける事実を認めるには足りない。
 したがって,この点についての原告Aの主張も採用できない。

 4  (結論)
 以上の次第で,その余の点について検討するまでもなく,原告Aの請求は主文第1項の限度で理由があるからこの限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,原告Bの請求はすべて理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。


【2006 Mar.21】
 判決としては、「書面の不備」を認め、「クーリングオフの起算が始まっていない」とし、原告のクーリングオフを有効としたものと解釈できます。この判決は、原告・被告双方とも予想していなかったかもしれません。

 原告の主張の中に「特定負担(の範囲と解釈)」があった訳ですが、司法はそこに着目したのでしょう。もとからこれは消費者問題であり、こうして紛争が起きている以上、損害を被っている原告を救済すべきである−−−という立場に立脚した判決だとも思われます。

 事実、被告は控訴し、「消費者を救うために、強いて書面の不備を持ち出したに過ぎず、不当な判決だ」と主張してきています。仮に書面の不備が無かったなら、勧誘時における「不実告知」が焦点にならざるを得ない訳ですが、一審では、信憑性が乏しいとして取り上げられておりません。

 本来、MLMの勧誘では、その勧誘時における不実告知や誇大表現・断定的判断の提供が重要項目のはずです。そしてそれらが不法的であることに契約者が気が付くのは、クーリングオフが過ぎた後々のことであることが多いのです。

 洗いざらい「書面の不備」を探しても無かった場合、勧誘時の説明・証言に焦点を当てなければならない訳ですが、証拠として弱い...信憑性が低いということで取り上げられなければ、「不実告知があった」という主張を裁判で通すのは難しくなります。

 「言った!」「言わない」、あいまい・不確実・・・な要素だけでは、『不実告知があった』ことを消費者が証明するのは困難であり、それを主張して原状回復を消費者が勝ち取ることは難しいことになります。

 特に、このマルチは文書をたくさん出してます。記録としての文書と、記憶に依る書き出した文書とでは重きも自ずと違うものになるやもしれません。

 契約をした後に送付される「契約書面」を説明する機会は、勧誘時のそれとは比較にならないほどお粗末です。本来、契約書面に何が書かれているのか、どういう内容の契約を締結したのか−−−それを先輩代理店が、研修会で講師が詳細に説明すべきです。

 他のページでも述べていますが、勧誘時の代理店の説明と、契約書面にある説明が違ったりします。被勧誘者が魅力を抱いたのは「勧誘時の代理店の説明」ですが、本当の契約内容は契約書面に文書であります。

 「勧誘時の代理店の説明」は口から出た言葉ですから消えてしまいます。誰の目にも見えません。残るのは、契約書面の方です。こちらは、統括者が何年にもわたって積み上げてきた言葉で、しかも文書として記してあります。とても、司法が同等に扱ってくれるとは思えません。

 何事も始まりが肝心−−−という観点に立つなら、勧誘時に受けた説明を記録に取っておくことです。

 勧誘時における代理店の説明−−−それが不実告知なのか?、誇大表現や断定的判断の提供に当たるのか?−−−それを勧誘時に即座に判断できる術を被勧誘者は持ち合わせていない−−−これに気が付かなければなりません。

 特に、応酬話法や詭弁を用いたあいまいな説明で、被勧誘者に妄想を抱かせるような内容であれば、なおさらです。あいまい・灰色では裁く事ができません。しかも、きちんとした記録が無く、過去の記憶を辿っただけの証言では主張の根拠は弱くなるでしょう。

 したがって、一般人がMLMの勧誘(らしきもの)を受けた場合、自己防衛策を講じなければならない−−−という保険が必要になってきます。重要な二項目は次の通りになりますね。

1)相手が、マルチの勧誘であると告げなかった場合、こちらから「マルチの勧誘か否か?」問い質す。

2)代理店の説明内容を箇条書きに書き出し、今言った内容に間違いがないかどうか確認してもらい署名捺印でもしてもらう。

 紹介者・説明者や自分の名前、そして場所・日時なども記しておくと良いでしょう。特に、1)は、勧誘が始まった直後あるいは始まる前に、「どうも胡散臭い」と思った早い時点で確認を取るのが良いでしょう。

2)は、入会して代理店になった後々、説明内容と現実との食い違いをチェックするために、(代理店として活動を続けるとしても)必須だと思います。説明されて思っていたことと違えば、何がおかしいのか分析もできますよね。

 言った事は消えるけど、書いた記録物は第三者でも分かる形で残るのです。大切に保管しておきましょう。